知ろうとする

熊本に来て6年が経ちましたが、まだまだ勉強の連続、福居万里子です。

 

産休・育休から復帰し、久しぶりにゲツキン!特集を制作しました。

テーマは『 水俣病を語り継ぐ資料 』です。

 

この夏、“ ヒャッケンハイスイコウ ”というフレーズが新聞やテレビの報道で飛び交いました。

ヒャッケンハイスイコウとは“ 水俣病の原点 ”と呼ばれる『 百間排水口 』のことです。

6年前、熊本に引っ越してきてすぐのころに水俣を散策したときに、私は初めてその存在を知りました。

水俣病は、原因企業チッソがメチル水銀を含む有毒な工業廃水を海へ流し、汚染された魚を食べたことで鳥やネコ、そしてヒトへと広がりました。

その、排水が行われた場所が『 百間排水口 』。

“ 水俣病の原点 ”と言われる所以です。

 

今回、その口を塞ぐ“ 樋門 ”の老朽化をきっかけに『 撤去 』か『 保存 』か、が議論されたわけですが、

熊本市中心部で『 百間排水口 』の認知度を調査すると、「 知っている 」と答えたのは 30人中3人。

現地を訪れるまで私も存在を知らなかったように、今回ニュースで取り上げられたことで初めて聞いた人も少なくないようです。

( みなさんは、どうですか? )

 

この一連の動きを見て私が真っ先に思い出したのが、水俣病センター相思社が保管している【 ネコ実験の小屋 】でした。

 

かつて、まだ水俣病の実態が分かっていなかったころ、原因を突き止めるべく工場廃液をエサに混ぜてネコに与えるという実験が行われました。

ネコは77日後に発症し、人々が苦しんでいる原因がようやく分かったのです。

このブログでは 去年すでに紹介しましたが、その実験に使われた小屋は相思社に保管されています。

ずいぶんと老朽化していたのですが、これからも歴史の証人として後世に残すべく、おととし修復が行われて保存状態も改善しました。

 

百間排水口も、“ 老朽化 ”が問題でした。

そして、今回の騒動がなければ、知らないままだった人も多くいたはずです。

多くの人に知られないまま、朽ちて、いつかは消えてしまっていたかもしれません。

何でもかんでも残せばいい、とは言いません。

しかし、保存の是非を議論することさえなく、歴史を語る資料が失われていくかもしれないだなんて、それでいいのでしょうか。

水俣病は小学校の教科書にも載っていて、ほとんどの人が概要を知っています。

けれど、百間排水口のことも、ネコの小屋のことも、知らないという人が少なくありません。

『 知っている 』からこそ、『 実は 知らない 』ことに気づきにくいのかもしれません。

今回の取材を通して、相思社の方から「 学び、知ったことが放送に繋がらなくたっていい。ひとつひとつの事実を知った上で、あなたがこれから生きていってくれるだけで、すばらしい 」という言葉を聞きました。

胎児性水俣病患者の方からは「 興味をもってくれて、ありがとう 」と言われました。

 

知ろうとする、その姿勢を、これからも忘れずにいようと思う取材でした。

今回の放送は【 RKK NEWS DIG 】でも公開中です。

 

~ ちなみに ~

今回の放送で、相思社の存在も初めて知ったという方も少なくありませんでした。

水俣市の資料館とは またちがう雰囲気で、当時の空気を感じることができる資料ばかりです。

ぜひ、一度 訪れてみていただきたいです。

( 敷地内にある “ 猫の墓 ” )